製麦の四工程

製麦は「浸麦」「発芽」「焙燥」「脱根」の4段階からなる

製麦(モルティング)は「浸漬」「発芽」「焙燥」「脱根」という4つのステップから成ります。要するに「麦を途中まで発芽させて乾かす」ということですが、もやしと違って、ただ芽を出させればいいというものでもありません。

浸漬(steeping)
まずは種に水を吸わせます。土に播いて水をやる代わりに、まとまった量の麦をタンクに入れて、水を張る形を取ります。昔は終始水に浸けっぱなしにしていたのですが、現在では水に浸けたり、揚げたりを何度か繰り返すほうがよいことが分かっています。大事なことは浸漬のあと、麦がストレスなく、もれなく、一斉に麦芽になっていくこと。これには浸漬前の麦の管理も大切ですが、浸漬をどのようにするかがその成否を左右します。保存状態の麦は水分を12%くらい含みますが、これを3日間ほどかけて、45%程度にまで上げます。

発芽(germination)
浸漬と発芽の区別ははっきりつけられるわけではなく、浸漬した麦をタンクからフロアや専用の設備に移送する場合はそこからが発芽工程ですが、麦にとっては両者は連続した過程です。
水分含量が上がって麦が覚醒すると、麦は呼吸を始めて炭酸ガスを出し、発熱するようになります。コメは発芽すると先に芽が出ますが、元来乾燥地の植物である麦は先に根を出し、製麦2日目までに種の先から根の先端が見えた状態(チット、chit)になります。

これを16℃前後の低温に保ち、炭酸ガスを除き、なおかつ水分が大きく失われないように1週間ほど維持します。放っておくと伸びてくる根が絡まってかたまりになってしまうので、これをほぐしてやる必要もあります。

発芽して根が生えた状態の麦は「緑麦芽」と呼ばれますが、この間に麦はアミラーゼに代表される様々な酵素を持つようになり、醸造に利用できるようになります。麦芽が麦と異なるのはそれだけではなく、種の大部分(胚乳)が白くもろくなり、指で簡単にすりつぶせるようになります。

これは「溶け」と呼ばれ、「発芽すること」が「麦芽になること」と違うのは、この点にあります。

焙燥(kilning)
45%程度まで上がった水分含量は、その後1日に1%ほどずつ低下し、緑麦芽は徐々に乾燥していきます。発芽の勢いが失われていく中で溶けが進んで麦芽になったら、完全に発芽を止め、保存できるようにするため、なおかつ、香ばしい香りや味わい、美しい色を与えるために、熱を加えます。生成した酵素を損なわないように緑麦芽に残る水分を見ながら温度を調節し、最後は目的の色が出るまで温度を上げます。低い場合は75℃、高い場合はロースター(焙煎機)を使って200℃以上をかけることもあります。

脱根(deculming)
焙燥後のモルトの水分は約4%で、根は干からびて、触るとすぐに取れてしまいます。一方で根は湿気を吸いやすく、そのままにしておくと麦芽自体の水分が上がってしまうので、シードクリーナーを使って速やかに取り除きます。この根の重さ、水分、発芽の段階で呼吸で失われるデンプンを合わせると、麦芽は元の麦と見た目がほとんど変わらないことも多いですが、重さは2割ほど軽くなります。

ビールやウィスキーといった「麦のお酒」を地産化しようとした場合、その土地で麦を育てるだけではダメで、このような工程を経て麦を麦芽に加工する必要があります。各地に「農業」と「醸造業」はあるけれど、それらを結びつけるための「製麦業」も必要なのだ、ということは、この10年ほどの間に世界中で再発見されているところです。

(初出:2020年9月20日 京都麦芽&麹製造所 Facebook投稿より改変)


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